益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

満82歳
終わりなき画業楽し(1)

私の自叙伝もいよいよ最終回を迎えた。思えば画家として神戸に居座って五十三年。その間、年々新制作展や梅田画廊、ぎゃるりー神戸の個展等で制作発表を重ねて来たが一九七五年神戸市文化賞を受賞、名実共に神戸市民となったとの思いを深くする。巷(こう)間に「異人館画家」の異名さえ頂だいして、全く神戸に住みついたものだが、いつのまにか七十歳の坂を越えた。未だ白髪を見ず万年青年をもって自認するとは言え、わが長年の画業を顧みて感慨に堪えない。一九七六年、画集「神戸の異人館」出版を記念して、サンチカ広場大ギャラリーで画業五十年・大回顧展を開催する。私としてはこれをもってわが画業の総括をなし遂げた思いだったが、いかんせん、私の活力は未だ衰えを知らず、八十歳を超えても依然として北野町・山本通り界わいへ日参。十年一日のごとく異人館を描きつづけている。

一昨年、私は念願の大阪梅田近代美術館で大個展を開催。続いてその翌年郷里・高知で大回顧展を開催した。故郷を出て約六十年、はじめて、画学生のころから現在に至るまでの代表作品を一堂に集めて古里の人々にまみえるとは、さすがに大きな感激であった。会場は思い出の高坂(高知)城を仰ぎ見る県立郷土文化会館。十七日間の長期にわたる会期中、連日小学生時代の友達から現在の画友・知友に至るまでなつかしい人々の来場を見る。回顧展の成功は、私の最後の画業を飾るものとして万感胸に迫るものあり、画家みょうりに尽きるありがたさであった。さらに帰神後日を置かず、サンチカ広場大ギャラリ−で小松益喜異人館展、九月に東京・新制作展、十二月にぎゃるりー神戸で近作個展を開催、と多忙をきわめ、画家として最良の年をおくる。