益喜を語る

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「異人館の画家」――小松画伯に神戸市民が贈った称号だ。神戸に住みついて50年、異人館のある風景を三千点も描きつづけてきた。作家陳舜臣さんは小松さんの画集の序文にこう書いている。

「神戸の町が大きく変わった時代に、小松さんは町のなかを走りまわるようにして絵を描いた。画家としてのたしかな観察眼が、愛情に裏づけられて、かずかずの作品が生まれた」

「小松さんのように、神戸のすがたを、その最も神戸らしい角度から、一心不乱に描いてくれた画家を持ちえたのは、神戸のしあわせといわねばならない」

よく透る大きな声、小柄な体で走るようにカンバスを抱えて歩く。なぜそんなに急ぐのか、と陳さんが聞いたら「早く行かんと異人館が壊される」と小松さんは答えたそうだ。

神戸の歴史的町並み保存にこの画家が尺くした力は大きい。とき夫人も同席してくれて、神戸市灘区のアトリエで、苦しく楽しい夫婦愛の物語の後、小松さんはまるで風神のように、私を冬の「異人館の町」へ連れ去るのであった。

聞き手: 山田一郎
高知新聞社客員、日本エッセイストクラブ会員。
大正八年、高知市生まれ。共同通信社社会部次長、文化部長、科学部長、編集局次長、大阪支社長を経て同社常務理事、システム計画本部長などを勤めた。
『寺田寅彦覚書』(岩波書店)で五十六年度芸術選奨文部大臣賞新人賞、高知県出版文化賞寺田寅彦特別賞を受賞。他に『南風帖』(高知新聞社)など。