廣田生馬・キャンバスの中に息づく街・神戸市寄贈の小松作品をめぐって―

小松益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

キャンバスの中に息づく街
―神戸市寄贈の小松作品をめぐって―

廣田 生馬

洋画家・小松益喜(1904〜)は、異人館街や旧居留地界隈をはじめとする神戸の街並みを、飽くことなく描き続けたことで、広く知られている。秩序ある構図と確かな筆使いによる描写の上に、街をこよなく愛する画家自身の情感が吹き込まれたその作品は、見る者の心を強く魅了してやまない。

この度、神戸市立小磯記念美術館で開催される、特別展「受贈記念 小松益喜展」は、1995(平成7)年1月の阪神・淡路大震災でアトリエが壊れた後に、作家御本人ならびに御家族より神戸市に寄贈された約4OO点の作品の中から、油彩70点、素描20点を紹介する企画である。

「街の肖像画家」とも称されている小松益喜は、60年余の長きにわたり、神戸の街が醸し出す様々な表情を、心を込めて描き続けてきた。小松の握る絵筆によって、情感豊かに描かれた風景には、戦災や、戦後の都市開発、そしてこのたびの震災で見られなくなったものも少なくない。画中に漂う心地よい詩情で、我々の心をなごませてくれる小松作品は、その高い芸術的評価に加え、今や神戸の歴史文化を語る上でも、尊ぶべき貴重な資料となっている。

その意味においても、地震で壊れた小松アトリエから救い出された作品群が、まとまった形で、復興への道を歩む神戸市に寄贈されたことの意義は、計り知れない程に大きく、深いものと思われる。