廣田生馬

益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

寄贈作品について (1)

神戸市寄贈の小松作品には、補修を要するものが多数あった。突き傷や擦れ傷を受けているものもあるが、それらも含めた多くの作品は、自然劣化やこれまでの移動等による損傷と推測される。

損傷・劣化の激しい作品や、受贈記念特別展への出品予定作品を中心に、汚れた画面の洗浄や、亀裂個所の押さえ等の作業が、修復の専門家の手によって行われた。

また、裸の状態であった油彩作品の額装や、素描作品のための保護マットの作成も行われた。この他、カビや害虫を駆除するガスくん蒸、補修作品の記録撮影、作品データを記録する資料カードの作成・記載、痛んだ額の補修やアクリル板の作成等の作業が、小磯言記念美術館学芸係の管理の下で行われた。

神戸市に寄贈された小松作品は、油彩に関すれば、やはり神戸市内を描いたものが多くを占めており、一般によく知られる小松益喜の歩みを裏づけている。そして、その中の何点かは、小松が精力的に関わった新制作展への出品歴を持つもので、画業を語る上で欠かせない作品でもある。

神戸の異国情緒豊かな街並みを題材にしたこれらの作品のほとんどは、戦後期のものであるが、中には「神戸の印象」のように小松益喜が神戸にやって来た頃に描かれた作品も含まれている。早い筆致で板に描かれたこの作品は、神戸における小松益喜の画業の出発を語る、記念的な資料と言えよう。

また、「ヘルムスブラザーズ商会」など、戦前期の作品を後年に描き直した、古き神戸を懐古する作品も何点か確認されている。姿を消した街並みに対する小松益喜の愛着の強さの程がうかがえる。

同じ神戸を題材にしたものでも、郊外の集落や、藁葺き民家を描いたシリーズも注目に値する。このシリーズは、1970年代後半から80年代前半にかけて、主に神戸市北区で制作された。郊外での四季折々の情景が、巧みに表現されている。

特筆すべき作品群は、油彩46点、素描157点におよぶ欧州の都市風景を描いたものであろう。

小松益喜は、1958〜59(昭和33〜34)年の欧州9ケ国、1969(昭和44)年のソ連(当時)、1973〜74(昭和48〜49)年のフランス・イタリア、1975(昭和50)年のソ連・東ドイツ(いずれも当時)、1980(昭和55)年の西欧5ケ国と、欧州への写生旅行へ5回赴いている。