廣田生馬

益喜を語る

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廣田生馬 和田青篁 父を想う

寄贈作品について (2)

今回の受贈記念特別展では、油彩15点、素描10点が出品されているが、その多くが初公開もしくはおよそ10年ぶりの公開となる。油彩の中にはキャンバスではなく、カルトンに描かれたものも多い。これらの滞欧作品は、異人館の画家・小松益喜の、あまり一般的でない画業の側面を語る、興味深い資料であると言えよう。

この他旅行先で制作したものに、「大連の教会」をはじめとする1936(昭和11)の大連シリーズや、小磯良平らとともに写生旅行に出かけた、1938(昭和13)年の台湾シリーズといった作品群がある。また、郷里・高知の風景を描いたものや、太平洋戦争中、奈良の室生寺に疎開した際に制作した人物画なども寄贈作品に含まれており、小松益喜の画業の多様性を、うかがい知ることができる。

制作年代や題材に関わらず、寄贈作品には、歴史的意味において、街の記録としての重要性を備えたものも、少なくはない。

終戦直後に、旧居留地から六甲山側をとらえた「終戦直後の居留地」には、神戸をはじめ日本中の大都市を襲った空襲後の様子が、痛々しく描かれている。また、戦前の神戸・山本通りの様子を伝えるものに、復元作「旗のある山本通風景」がある。当時山本通りにあったフランス領事館を中心に、今のシュエケ氏邸、門兆鴻氏邸などがならんでいる一角が描かれているが、都市開発により、現在では景観はすっかり変化し、当時並んで建っていた5軒の異人館は、2軒を残すのみとなっている。

この他、近代的な増築がなされる前の「在りし日の神戸地方裁判所」や、阪神・淡路大震災で倒壊し、再建が予定されている栄光教会を描いた「栄光教会とその周辺」などの作品が、神戸の景観の歴史について、極めて貴重な.証言を行っている。