益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

書画一体
わが道に示唆 書は余技ならず(2)

私は後日、鄭父君碑銘の元寸判を手に入れ、三十余年、こつこつと独りで習った。絵を描きながら寸暇を惜しんで自習するうち、次第に書から得るいろいろな発見があり、へなへなのように見えて決してへなへなでなく、鉄芯(しん)字だということも分かったし、曲がったところに個性が出ていることも分かって来た。何よりも良き書を見たとき、作者の感動がしみじみと伝わって来る喜びは忘れられない。書もまた、自ら感動して書くことによって感動した字が書けるのだ。これは完全に画道と一致する。技巧の上でも、例えば線一本の引き方でも、書道の上で得たものが絵を描く上で生かされ、画道の中で会得したものが書道の中で活用される。書画全く一体のものがあり、それは私にとって二重の喜びであった。かくて、鄭父君碑銘を三十年独りでこつこつと習ったことは、後年大いに役立ったことである。

一九七八年ころ、私は県文化課の森田修一氏の紹介で新書人連合の和田青篁氏と相知ることとなり、氏の人格、識見、力量に傾倒する。きけば、和田氏らは既成書壇を離脱し、権威主義と腐敗を批判して、真の書を悲願する人たちと新書人連合を結成されたという。また、新書人連合が「純粋に書美を追求する作家集団活動を目的とする」ものであることを知り、かつての新制作派協会誕生を思い合わせて、甚だしく魅力を感じたものだ。和田氏からかな書きを勧められ、長年の私の孤立した書生活に終止符を打ち、かな書きのけいこをする。長年の習字鍛錬の成果か、五年目に新書人連合展に出品して一回で入選。以来年々連続入選し、七回展で全会員の推薦で会員となる。わが書道の上に多くの啓発、向上を得た喜びは言うまでもないが、会によって多くの先輩・畏(い)友との接触を得、わがゆくべき道にそれぞれの示唆・忠言を得られたことは、何ものにも替え難いありがたさであった。和田青篁氏をはじめ村上翠亭氏、川合豊彦氏、二宮柏龍氏、難波祥洞氏、寺谷方翠氏、小山鳥雲氏、尾市文章氏、三宅青舟氏等(その他にも多々)ご氏名を列記して感謝の意を表したい。

新書人連合展は本年十二周年を迎える。その一隅に私自身の存在を思うとき、わが晩年の豊かさが顧みられて、まことに感慨深いものがある。