父の人生が今の時代に問いかけるもの (1)
最近の“警察庁犯罪被害者対策室のホームページに、“心的外傷後ストレス精神障害(PTSD)”について次のような記載がある(要約)。
被害者は、命を奪われる、けがをするなどの生命、身体、財産上の直接的な被害だけではなく…精神的ショックや身体の不調や…失職…などによる経済的困窮、…周囲の人々の無責任なうわさ話や…不快感など、被害後生じる様々な問題に苦しめられます。
これは犯罪者によって引き起こされた被害から生じる心的障害を述べたものであるが、戦前の天皇制警察は、今日犯罪者がおこなう行為を、権力を使い組織的に、極限まで残酷におこなったのである。
今日わかっているだけでも、特高警察の拷問、虐待などで殺害・獄死させられたものは1682名にものぼる。また、国会の議論の中でも「司法省の調査によって見ると、(治安維持法関係で)検事局に送検されただけでも7万5681名です。送検されない段階の逮捕を合わせれば、これが数十万に上ることは容易に察知されることです。」とのべられているが、その大半の人は激しい拷問や虐待を受けたのである。
登喜は、高知で戦争反対のビラ配布に協力したことを理由に逮捕され、結果として不起訴になったが、その過程では拷問を受けている。登喜が獄中で詠んだ、次のような短歌がある。
髪引かれ頬なぐられてもわが口は かたく黙してうす笑い居り
血に染みし畳みつむるわが胸に 憎しみの焔燃えたちにけり
椅子に縛られたまま殴られ、引き倒され、顔が畳に接している。自分から流れ出た血が染み入る様を間近で見つめている情景を、そして、暴力で人を屈服させようとするものに対する軽蔑と怒りの心情を詠ったが――この時、登喜は初めての子どもを妊娠していた。獄中で懐妊を自覚するのであるが、その女性にこうした拷問を加え、240日も拘束し、出産直前に釈放したのである。
今日の常識からいって、どれほどの人権侵害、犯罪行為であることか。治安維持法で逮捕され起訴にならなかった数十万のうちの一人に加えられたこの仕打ちを見るだけで天皇制警察のおこないを告発するに十分な内容がある。