益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「傍若無人…娘子関の戦いの跡」

小磯さんはあまり飲まれないから、「後は諸君適当にやって行ってくれたまえ。」と言い残して、パーティが始まってしばらくすると、石垣上の屋敷の方へ帰っていかれた。まあ、日頃うまいもんを食ってない連中に、絵の完成記念にかこつけてご馳走してやろういう、小磯さんらしい優しい計らいやったんでしょうなぁ。

主人の小磯さんがおられんようになると、小松さんがそこらにある高級ワインやブランデーのがぶ飲みをはじめてねぇ。こらぁ剣呑(けんのん)やいうて、一人去り二人去り…。 気が付いたら夜も更けて、私と小松さんと二人きりになってたんですわ。…。それからは、手の付けられん悪酔いのからみ酒に延々と付き合わされましてねぇ。

なんでもその頃の小松さん、旧居留地『英三番館』に夢中だったと思いますが、どうもその日の絵の出来具合がうまくなかったらしい。それが、彼のカンに触っとうらしいんですなぁ。「あのくらいのヨロイ窓の影が描けんでどうする…」とかなんたら独り言ブツブツ言うてたかと思うと、突然「この下手くそ絵描きめがっ!」て怒鳴ると、そこにあった飼い葉オケを。例のモデルの馬の餌のオケが、まだあったんですわ。それを自分で自分の頭にぶつけると、そのままそこへノビて寝てしもたんです。

もう真夜中過ぎで、私も夢幻しのようにその光景を眺めながら、寝込んでしまったらしいんですね。…。