益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「傍若無人…娘子関の戦いの跡」

小磯さんの声に目をさますと、朝の七時頃やったか、小松さんは、小磯さんの見えるまでに、疾(と)うに写生に出かけて行って、おらんのですわ。アトリエいうたら、馬の飼い葉が散らばってオケは転がってるし、そこここに洋酒のビンが横倒しになって酒はこぼれてるし、目も当てられん惨状なんです。

それでも小磯さんは、小松さんのことだけは絶対に悪ういわんかった人でしてね、ポツンと一言いわれたつぶやきが、今でも私の耳の底にこびりついてますわ。

「やれやれ、こりゃぁ『娘子関の戦いの跡』やねぇ。なあ、桝井君。」…。