小磯さんの声に目をさますと、朝の七時頃やったか、小松さんは、小磯さんの見えるまでに、疾(と)うに写生に出かけて行って、おらんのですわ。アトリエいうたら、馬の飼い葉が散らばってオケは転がってるし、そこここに洋酒のビンが横倒しになって酒はこぼれてるし、目も当てられん惨状なんです。
それでも小磯さんは、小松さんのことだけは絶対に悪ういわんかった人でしてね、ポツンと一言いわれたつぶやきが、今でも私の耳の底にこびりついてますわ。
「やれやれ、こりゃぁ『娘子関の戦いの跡』やねぇ。なあ、桝井君。」…。
小磯さんの声に目をさますと、朝の七時頃やったか、小松さんは、小磯さんの見えるまでに、疾(と)うに写生に出かけて行って、おらんのですわ。アトリエいうたら、馬の飼い葉が散らばってオケは転がってるし、そこここに洋酒のビンが横倒しになって酒はこぼれてるし、目も当てられん惨状なんです。
それでも小磯さんは、小松さんのことだけは絶対に悪ういわんかった人でしてね、ポツンと一言いわれたつぶやきが、今でも私の耳の底にこびりついてますわ。
「やれやれ、こりゃぁ『娘子関の戦いの跡』やねぇ。なあ、桝井君。」…。