小松益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

第5回 その絵画の根底に流れ出るもの(下)

「宴会芸とは無縁の人」の心遣い

兵庫近美の無任所館長補佐というのは、館長秘書役という一面もあったから、時おり、当時の館長=金井元彦さんの部屋に伺候して、館長のお話相手を務めることがあった。

そんなある時の、金井館長の、小磯良平さん学生時代の思い出話である。


ボクが一高の何年のときだったか、小磯君を美校の寮に訪ねたことがあってねぇ。ちょうど寮祭かなんかやってて、ちょっとそこら探しても見つからんのだ。…。でねぇ、寮の集会所みたいなとこをのぞくと、裸の体に墨塗って腰ミノ付けて『土人おどり』やってる学生が何人かいて、よく見るとそのうちの一人が小磯君なんだ。…。真面目なクリスチャンだった彼に、あんな裸踊りさせるなんて、絵描きの養成学校いうのは変わったことやるもんだよ。そう思って見てたら、ボクの服装が美校生とは違うんで、小磯君もこっちに気付いたらしいんだ。一人だけ勝手に踊りやめて、ソデに引っ込んでしまった。…。

ボクら二中の同窓の間では、敬虔(けいけん)なクリスチャンで通っていたからね。そのボクに見られて、ありゃあ、よっぽど恥ずかしかったとみえるねぇ。…。


とおっしゃる金井さんの、一高寮もバンカラで聞こえたはずなのに、若い頃から「古武士の礼節」を堅持しておられた金井さんは、その風にだけは絶対染まらなかったと、断言される。