益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「彼はボクの親友なんだ」

昭和二十年代半ば過ぎ(一九五二頃)、私は社教芸文の仕事に就いて、当時H社会教育主事の下働きをしていたが、展覧会共催の地元神戸新聞の、H文化事業局次長の下働き的存在にTさんという好青年がいて、二人ともども、県下の有名画家のアトリエを訪問する機会を得る。県と新聞社との共催事業という信用だけで、県下の有名美術家の方々から、巡回を含む二か月ばかりの間、貴重な作品をお借りするという、また美術家の方たちも進んで協力を惜しまれなかったという、嘘のような本当のことが現実に行われた。

作品輸送には一般の引っ越し用トラックを使用、予算が乏しく美術品損害保険も掛けられない、今更ながらまことに無謀なことが通用した戦後混乱時代の、ある晩夏の午後の話である。

小磯良平さんの当時新築の住吉アトリエを訪問したところ、絵の荷造りが出来るまでの間、「まあ、上がって茶など飲んでいきたまえ。」という話になって、私たち二人の若造は、大胆不敵にもアトリエへ上がり込み、小磯さんの茶飲み話をうかがう光栄に浴する。

私は初対面であったが、Tさんはもう何度かうかがって旧知の間らしく、あちこちの画家たちと小磯さんとの出会い話などを巧みに聞き出しては、実になれなれしく談笑している。私は、ただかしこまって、二人の会話を拝聴しているのみであった。

と、その時、こんな話が飛び出したのである。