益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「強情っぱり」「名画は頑固の産物」

忘れもしない。その翌年の春、ボクと仲良しの小磯君は、ともに神戸二中を受験するんだが、合格発表を見に行ってみるとさ、順に並んでた前のボクの番号があって、その後の小磯君の番号がないんだな。こりゃかわいそうだと思ってさ、帰り道に山の上の小磯君のウチへ寄ってみたら、奥の部屋の隅でシクシク泣いてたんだなぁ。よほど悔しかったと見えて、さしのべたボクの手を振り払ってね、ただ泣いてばかりいるんで、ボクはどうしようもなくそのまま家へ帰ったよ。 その後一年間彼は、近所のボクにも絶対会おうとしなかったなぁ。その翌春、小磯君は一年遅れで二中へやって来て、また一緒に絵をやるんだけどね。…。

何日か後に、田中さんがまた館へやって来られ、うかがった話が、実におもしろい。

こないだ、久しぶりに、小磯君の住吉のアトリエへ行って来たよ。…。

でね、例の話をさぁ、「例の?」って、彼が一中落っこちたときのことをさ、話したんだ。すると、それまでなごやかに話しあっていた彼が、突然怒りだしてねぇ。「ボクは、そんなことぐらいで、泣いたりなんかするもんか。絶対キミの思い違いだ。」と言うんだがね。…。「いやぁ泣いてたよ。」「泣くもんか。」何度かやりあって、結局ボクの方が折れてねぇ。「そうかい。泣いてなかったかい。」と言って、その話の幕引きをするハメになったんだが…。とにかく小磯君の一度言い出したら後へは引かない強情っぱりというのは、昔に変わらず健在だったんで安心したよ。…。