益喜を語る

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「宴会芸とは無縁の人」の心遣い

「ボクは絵以外のことは能なしザルだから…」とかなんとか言って、小磯さん尻込みしてたんですが、「ボクら、みんなやったんだから、小磯さんやれよ」と頼まれて、とうとう引っ込み付かんようになってねぇ。恥ずかしくて首筋まで真っ赤になりながら、小声で歌いだしたんが、「ツゥーキナキミソラァーニィ、キーラメクヒカリーィ…」

「賛美歌」なんだなぁ、小磯さんの「余興」ちゅうのは…。いやーあ、一座はシィーンと白けちまってねぇ。ボクら後輩連中は、裸の身の置き所もなくて…。あらぁ、参った。みんな、参ったですよ。以来今日まで、『新制作展』の打ち上げでは、小磯さんの「余興」だけは、ご遠慮いただくことになってます。これ、ホントの話。…。


この話も、昭和62(1987)年一月の『小磯良平展』美術講演会においでの方は、多分ご記憶であろう。小磯さんの、生真面目で清廉潔白な、猥(わい)雑な宴会芸などとは無縁の、人間を物語るエピソードである。

なおこの、小磯さんがただ一度だけ、新制作派展宴会「余興」に歌われた、賛美歌第312番は、昭和63(1988)年12月19日、神戸教会の葬儀で「故人愛唱賛美歌」として紹介された。よほどお好きな歌だったらしい。