益喜を語る

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「ボクの抽象画に対する審美眼」

忘れもしない、以前の木造モルタル張りの私学会館二階講堂での審査会当日は、西日が薄いカーテン通して背中から照りつける、晩夏の午後であった。扇風機ではまともに涼がとれず、井上さんも、小磯さんも、口うるさい吉原さんなどは文句たらたら、片手に扇子片手にハンカチで汗をふきふきの審査の、冒頭打合せのときのことである。

サァーッと一とおり応募作品をご覧になったあと、小磯さんがまず口を切られた。

あのねぇ、ボクが審査員になったからだと思うが、具象画はボクの絵に似せた絵ばかり多くて、全然おもしろうないんだな。…。それで、提案なんだが、ボクに抽象画の審査を専門にやらせてほしい。吉原君を前に、大変僭越なんだけど、…。ボクの、抽象画に対する審美眼も、捨てたもんじゃないとこ、チヨット見てもらいたいいうこともあってねぇ。どうだろうか。

「どうぞ、小磯さんがそうおっしゃるなら、ボクが具象の方を見てもよろしいが…。」と、吉原さんが応じられ、「そしたらボクは行司役。どちらかがお選びになったのを、最終的に、『入選』『落選』『保留』と、決めて進ぜよう」井上さんの合いの手で、審査のルールが確定した。

「保留」というのは、一通り審査を終えたところで、再度お三方のお目にかけ、展示壁面の余裕をみて最終決定を下していただく、私学の入学試験によくある「一次補欠」のようなものである。