益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「左翼運動の後遺症」をかかえて

この、小松さんの貧乏暮しを、陰で支えた方が、奥さんのトキさんであった。

しかも、奥さんは、小松さんとは彼の人の美校時代に結ばれるのだが、美校卒業直前に小松さんが「共産党幹部をかくまったカド」で渋谷署へ逮捕留置されたときは、小松さんの学友=木下幹一さんに「卒業制作代作」を依頼されるなど、常に小松さんの救いの神的存在であったから、小松さんは、事あるごとにいつも、奥さんへの感謝の気持ちを忘れられなかったものである。

ついでながら、小松さんの美校卒業制作が、友人の代作であったというのは、ちょっと愉快なエピソードである。木下さんというのは、よほどの模写の達人だったと見える。…。

渋谷の留置所では、心細くてねぇ。なんしろ、ブタ箱生活初体験だろう。…。

女房が、差し入れ持って来てくれたときは、もうただ嬉しくて。で、その顔見たら、倍ぐらいにハレあがっとるですよ。「特高」にヤラレたんだ。女にまで、ひどいことするヤツらですよ、「特高」は。…。

その時ボクは、ハラがすわったです。女房が、こんなにしてまで、ボクを支えてくれてるのにですよ、ボクだけ簡単に「降参」出来ますかってんだ、ってね。…。

まあ、女房さまさま。ボクは、女房には、頭上がらんですよ。