<<解説>>
これも前作と同じく、大作のためのエスキースである。一年かけた制作作品は、新制作に出品、好評を得た。これも小さいが、楽しめる絵である。
多くの異人館とはちがい、ここは灰色のモルタルがぬってあった。この灰色のカベの、メジが光線の具合で上が影になり、下側は陽が当ってキラキラしていて、非常に美しかった。
ところが、調子が出て描いているときに、ロシア人のマダムが出てきて「キタナイ、キタナイ」という。僕は絵のことかと思い「バカ言え!!」と大声を出すと、そばの女の人があわてて小声で、“あの家は相続でもめて、そのことをキタナイ、とこぼしているのです”ととりなしたのだった。
澄んだ光線が、実に美しく灰色を変化させ輝かせていた場所だが、後に入り込んだルンペンがボヤをだし、とりこわされてしまった。