<<解説>>
メリケン波止場を北に少し上った、もと居留地西町、今の南京町通、郵船の上にあった、トムソン商会の建物だ。
居留地の中でも、壁カンバンのあるのはこのトムソン商会とオリバー・エヴァンス商会だけであった。
店は雑貨屋、異人さんのデパートで、数々の代理店もかねていた。2階には日本に関する本、文献が、10m以上もあるたな2段2列にギッシリとつまっていた。戦争が始まって、閉店になる時、この本全部をロギス古書店のオヤジさんが買いとっていった。
この建物を、僕は8年も描いた。
毎年一年づつ、これは2年以上かけてかいた、8年目の作品である。(他の絵はみな、行先不明である。)
技法は、グラシ(グレース)を主に使っている。ファウンデーション(地塗り)を白っぽくし、ルフランのパンドール油をつかって上に透明な色をかぶせていく方法である。
建物の重厚さ、かたさ、をこの手法でだそうと思った。
かいていたある日、2代目店主のグリヒス氏が、「君、この絵を参考にしたまえ」と、僕が以前に描いた絵のカラー絵葉書を持ってきてくれたのは、愉快な思い出である。
戦災で消失、焼けたあとに、基礎の石積みだけが残っていたのが、あわれをとどめた。