<<解説>>
小さな作品だが、私の非常に好きな絵である。白い壁、鎧窓、濃いグリーンのヘイ、それに枯れた木のとりあわせがおもしろく、画興をそそられた。
マチエールは厚ぬり。白いしっくいの感じをだそうと、いろいろと工夫し情緒が出たと思う。庭木のさざんかの濃い緑と枯木になった梨のような木の調和が、また何とも言えない、と感じたのだった。
ここには一つの思い出がある。
住んでいた白系ロシア人が帰国することになり、絵を所望した。「いくらか」というので「号200YENだ」と言うと、一号につきということがわからず、200円だけ手に握って来たので、さし上げることをしなかった。
今思うと、デッサンの一枚でもあげればよかった、と悔いが残る。亡命してきた白系ロシア人だが、「ソ連に帰国の許可が出て……」と実にうれしそうに微笑んでいたのが忘れられない。
山本通りと北野町との間の小さな路地にあるこの家には 今はたしかインド人一家が住んでいるはずである。