神戸異人館今昔

13.門兆鴻氏邸(現存)

門兆鴻氏邸

トアロードを登りつめると、赤煉瓦の長い塀のある家に出る。ここを右に折れると、黄土色の新しい建物がある。もう一軒東がシュエケ氏邸の異人館、その東隣りがこの門兆鴻氏邸だ。

神戸の北野町、山本通り、居留地にも残っていない渡廊下のついた家である。

これは生活の知恵の遺物とでも言おうか、雨風除、明かり取りを兼ねた明治時代の知恵だ。柱はマルス・ヴァイオレット、下見板は肌(はだ)色、鐙窓のわくは柱と同じ、鎧戸はちょっと黄味をおびた緑色、門柱の帽子は花崗岩、煉瓦塀はイギリス積、塀の上は黒瓦で覆われている。いまは小石橋も門柱の基礎石も塀の基礎石も、舗道が高くなり見えなくなって殺風景だ。

屋根の切妻口には米字形の飾りがついていて、その角はとびとびに削られ凝(こ)っていた。戦前の一時期はスイス人・ジーベルへクナ一氏が居宅としていた。色は戦時中の色がいちばん美しかった。柱は深緑(みどり)、下見板は灰色、窓枠は深緑、鎧窓は黄緑だった。